B:快速の始祖鳥 クルーゼ
アルケオーニスという魔物を知っているか?羽毛が生えているから、鳥のように思うかもしれんが、その正体は、ラプトルみたいな甲鱗綱に近い、原始的な生物さ。
知性の欠片もないが、それだけに魔力に影響されやすく、ドラゴン族に操られ眷属として利用されることが多い。ここらの騎兵にとっては、油断ならない存在さ。
特に警戒すべきは、「クルーゼ」と呼ばれる個体だ。恐るべき脚力の持ち主で、氷原を自在に駆け回り、度々、騎兵を奇襲しているらしいぞ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
クルザス西部高地にアルケオーニスという大型の鳥がいる。
体高2.5~3.0m、黒い嘴があり、ぽっちゃりした全身は体毛ではなく羽根で覆われている。翼はあるが使い物にならず、走る姿はダチョウに似ている。この鳥は空こそは飛べないが太くて大きな足を使い、時速で言えば60~70kmくらいの猛烈なスピードで地表を走る。
あたしと相方はこのアルケオーニスの特異体としてリスキーモブしていされたクルーゼと呼ばれる個体を探してかれこれ何時間クルザス西部高地の雪原の中を歩いていた。
この雪原は第7霊災の影響で断層が隆起したり、逆に陥没したりしていてアップダウンが激しい上に、気が付いたら絶壁の崖の上にいて数m先で大地がなくなっていたり、雪に隠れたクレバスがあったりと気が抜けないため精神的にかなり疲労していた。
絶壁の崖を迂回して少し見通しのきく場所に出た時、相方が雪原の遠くを雪煙を上げ猛スピードで視界を横切る何かがいるのに気付いた。相方が指さす方向をしばらく二人でぼんやり見ていた。
「!!」
「えっ、何?何?」
雪原の先を視界の左から右へ横切っていたそれが突然進路を90度変えあたしたちの方に猛スピードで向かってきたのだ。
奇声を発しながら、首を横に大きく揺らしながら猛スピードで向かってくる様は狂気を帯びていてある種の恐怖を覚える。
「ね、これっ、どっちに避けるべきなの??」
あたしが戸惑ってわたわたしていると、動きを読もうとジッと様子を見ていた相方が言った。
「わかんない…」
「どういうことー!」
「動きが読めないんよ!」
奇妙なそいつとあたし達の距離が10数mに差し掛かったところで奇妙なそいつは突然空高くジャンプして飛び掛かってきた。
「ひいいいいいっ」
あたしと相方は左右にそれぞれ転がる様に飛んで避けると、振り返ってそいつを確認した。
今まであたし達がいたあたりに雪煙を上げて着地したそいつは進行方向をまっすぐ見たまま胸を張った直立不動の姿勢で立っていた。例えていうなら横から見た風見鶏のような姿だ。
「なんなのよ…」
あたしは尻もちを付いた状態のまま風見鶏を見ていた。
後から知ったことだが、こいつは鳥類というよりは鳥竜類なんだそうだ。鳥竜類といえばラプトルが有名だ。コミュニケーションをとりながら集団で獲物を追い、時には囮を使ったり、罠を仕掛けたりしながら獲物を追い込んで、最終的には飛び掛かって仕留める。飛び掛かった際には脚についた鎌状の大きな爪を相手に差し込んでしがみ付いて離れない。かなり頭が良くて、しかも痛そうな連中だ。だが残念ながらこいつは知能だけは鳥並らしい。
風見鶏は突然クルッと顔だけあたしの方に向けてケエエエエエっと意味不明に叫んだ。
「うわああああっ」
あたしは完全に気圧されて四つん這いのまま、這って距離をとった。それを見て風見鶏は満足げにまた正面を向くとゆっくり3~4歩歩くと、また徐々に足を速めて再びそのまま雪原の彼方へ走り去った。
「大丈夫?」
相方が尻もちのまま泣きべそをかいているあたしの所に駆け寄ってきた。
「騎士団が奇襲されたって言ってたけど、奇襲じゃないよ!あいつ脳味噌が鳥だから行動に脈絡がないんだよ!」
あたしの「苦手な奴リスト」にこいつが追加されたことは言うまでもない。